繋がっていく命のバトン
ちぎれた命の絆
父から受け継いだ命のバトンは生まれた時に受け取る。父と母と同じ血が流れているということに幸せを感じるのは、【あたりまえの幸せ】だと思う。
生きていることで、その絆を感じる幸せは忘れてしまっている。そうなんです、気づかない幸せなんです。
今回は、ご依頼者の方のご了承を得て書かせていただいております。
30歳の誕生日翌日に宣告された命のリミットタイム
希望の大学への入学、念願の社会人となった彼は、職場の環境に恵まれたくさんの人との出会いの中で人間的にも成長していた。
そして人生を変える奥様との出会いを果たす。一瞬で相思相愛になった2人は、付き合って3年目に結婚を迎え、誰もが認める幸せな家族となった。
結婚後も仕事も順調で毎日将来の話をするのが楽しみになるくらいで、幸せいっぱいだった。そんな中にもう一つ幸せの結晶が生まれた。
結婚2年目に子供を授かった。それは念願の男の子。男の子だったら「賢士(けんし)」と名付けると決めていたのだ。
賢士くんは、元気に育ちよく笑う子で2人の人生をより明るく照らしていた。
突然、襲ってきたもの
職場での健康診断を受けて肺の部分に陰が見つかった。医師からはそんなに重大な問題ではないと聞かされていたようで、日常生活の中では、気に留めてはいなかった。
しかし、精密検査の結果は「肺がんステージ4」
すでにリンパにも骨にもがんが転移し、手術も放射線治療もできない状態だった。一年生存率はたった30%」
絶望で押し潰れるような精神状態の中、奥様に話をし覚悟と闘病への決意を語った。30%にかける想いはきっと世界中の誰よりも強かったでしょう。
その時の強い決意を納めた写真に彼の想いを作品にしました。
かつて父が私をこうして抱えた時
同じこと想ったのかな
君に出逢うために生きてきた
生きるって繋がること
この作品で彼が伝えたかったこと
生まれてきたことの使命は、自分の命を次の命につなげること。賢士と出会えたことで生きている証になったことが幸せで、自分も父親も母親の命も証明できた。
命をつなげることが生きている証と彼から教わったように思えます。
この作品は、彼が闘病を始めた時に書きました。そして約束として、命が尽きた時に奥様に渡してほしいと伝えられました。
生きることは、命をつなげること。それは血の繋がっている子を生むことだけではなく、生き様を伝えることや想いを残すことでもある。私は彼から、それを受け継ぎました。
彼の生き様は、きっとたくさんの人の心に生き続けているでしょう。
闘病から4ヶ月目の朝
静かな朝だった、闘病をしていた彼は命尽きた。泣き崩れる奥様、抱きかかえられている賢士。その姿は、心臓を激しく掴まれるくらい見ていて辛かった。
心を救えるかどうか不安だったが、彼の想いを伝えることで生きていた証をご家族に伝えることが私の最後の使命でした。
作品を目にした奥様、お父さん、お母さんは悲しさの果てに見た幸せな笑顔をしていました。彼の命は生き様は心の支えとなり家族を守り続けてくれることを確信しました。
この作品に関われたこと、心から幸せに思います。本心では、彼が生き続けてこの作品が家族の手に渡らないことが本当の幸せだったのかなと思う時もありましたが、生き続ける想いを残せたことが嬉しく思います。